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東京地方裁判所 昭和31年(行)83号 判決

アメリカ合衆国ニユーヨーク州ニユーヨーク二十八メデイソンアブイニユー十二の六十一

原告

ウオルター・エフ・フランリイ

右訴訟代理人弁護土

エルマー・イー・ウエルテイ

右訴訟復代理人弁護土

笠利進

岩谷元彰

飯野仁

赤松介

東京都千代田区大手町一丁目七番地

被告

東京国税局長

中西泰男

右指定代理人

河津圭一

森川憲明

鴫原久男

高木雄次郎

右当事者間の昭和三十一年(行)第八三号所得税審査決定取消請求事件につき、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、原告の申立

被告が昭和三十一年六月十二日付でなした原告の昭和二十九年分所得税に関する審査請求を棄却する旨の決定はこれを取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

との判決を求める。

第二、被告の申立

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

との判決を求める。

第三、原告の主張

一、原告は昭和二十九年度分の所得税につき芝税務署長に対し総所得金額を百二十万四千九百四十円、税額を四十二万千四百二十円として確定申告したところ、芝税務署長は昭和三十年九月十日付で総所得金額を百八十万四千八百八十円、税額七十二万千三百五十円と更正し、その頃原告に通告した。原告は右処分につき被告に対し審査の請求をしたところ、被告は昭和三十一年六月十二日付で右請求を棄却する旨決定し、その頃原告に通告した。

二  しかしながら、被告の右処分は次の理由で違法である。

(一)  訴外インターナシヨナル、スタンダード、エレクトリツク、コーポレーシヨン(以下訴外会社という)は米国デラウエア州法に準拠して設立され、本店をニユーヨーク、フロード、ストリート、六十七番地に有し、電気通信材、電子的及び電気的製品の製造及び販売業を業とするが、旧租税特別措置法(昭和二十一年法律第十五号、以下法という)第五条第一項の外資法人である住友電気工業株式会社及び日本電気株式会社と特許実施権設定契約と技術顧問契約とからなる技術援助契約を結び、技術資料の提供及び技術指導の業務をも行つている。

(二)  したがつて、訴外会社は、昭和二十六年十月十九日大蔵省告示第一五〇一号(以下告示という)第二項所定の技術顧問業にも従事しているというべきであるから、訴外会社は、その事業活動により外資法人の事業活動が容易となり、かつ、外国資本の適正な導入が促進されることとなる事業を営む法人として、法第五条の二第一項所定の法人である。

(三)  かりに訴外会社が法第五条の二第一項の法人でないとしても、訴外会社が保有する住友電気工業株式会社及び日本電気株式会社の株式は昭和二十九年一月一日現在で一億円を超えるから、法第五条第四項第二号に規定する外資法人にあたるというべきである。

(四)  原告は昭和二十五年十一月二十九日から日本に居所を有し、右訴外会社に勤務して昭和二十九年度に訴外会社から百八十万四千八百八十円の給与の支払を受けたことは争わないが、右給与所得については法第五条の二第一項そうでないとしても第五条第一項によつて、その十分の五に相当する金額を控除した金額をもつて所得税法第九条第五号の収入金額とさるべきであるにもかかわらず、右給与金額を収入金額としてなした芝税務署長の更正処分は違法であり、したがつて右処分を適法として原告の審査請求を棄却した被告の処分もまた違法である。

三  よつて被告の右処分の取消を求めるため本訴に及んだ。

第四、被告の答弁及び主張

一、第一項は認める。

第二項の(一)は認める。同(二)は否認する。同(三)中訴外会社が保有する原告主張の会社の株式の価額が一億円を超えることは認めるがその余は否認する。同(四)中原告が昭和二十五年十一月二十九日から日本に居所を有し、訴外会社に勤務して昭和二十九年度に訴外会社から百八十万四千八百八十円の給与の支払をうけたことは認めるがその余は争う。

一  被告の主張

(一)  訴外会社は告示第二項所定の技術顧問業に従事しておらず、右告示に大蔵大臣の定めている種類の事業を営んでいないから、法第五条の二第一項所定の法人ではない。また、訴外会社はその日本国内に有する資産を、日本国内において、別に大蔵大臣の定める物の生産または製造業の用に係していないから、法第五条第四項第二号所定の法人にも該らない。

(二)  仮りに訴外会社が法第五条の二第一項所定の法人ないし法第五条第四項第二号の法人であるとしても、その法人から支払を受ける給与所得について、法第五条の二第一項の適用をうけるためには、法所定の申告書を当該給与所得の支払者を経由して政府に提出しなければならないところ、原告はこのような手続を履践していないから、原告の給与所得には前記条項は適用されない。

(三)  したがつて、原告が訴外会社から支払をうけた給与所得について、右法条を適用せず、原告が同社から支払をうけた給与全額をそのまま収入金額として芝税務署長がなした更正決定及び右決定を不服としてなした原告の審査請求を棄却した被告の決定は適法である。

第五、被告の主張に対する答弁

原告が法第五条の二第二項所定の申告書を提出していないことは認める。同条項の定める手続は、同法施行規則により、所定の申告書を毎年最初に給与所得の支払をうける日(又は年の途中より給与所得の支払をうける場合には最初に給与所得の支払をうける日)の前日までに、給与支払者を経由して所轄税務署長に提出すべきこととされているが、これは例えば、年末に日本に居所を定めた或る外国人が翌年一月四日に最初の給与所得の支払をうけしかも給与支払者が米国にあるというような場合を考えれば、法第五条の二第一項の適用をうけるために、納税者たる右外国人に事実上不可能なことを強いるもので、憲法第二十条第八十四条の法意に反する無効な規定というべきであるから、前記条項の手続を履まなくても法第五条の二第一項の適用をうけるべきである。なお、訴外会社が日本国内で電気通信機等の製造をしていないことは認める。

第六、証拠

原告訴訟代理人は甲第一、第二号証を提出、被告指定代理人は甲号証の成立はいずれも認めると述べた。

理由

原告の主張第一項は当事間に争がない。

そこで被告の本件処分の適否につき判断する。

原告が昭和二十五年十一月二十九日から日本に居所を有し、原告主張の訴外会社に勤務して昭和二十九年度に訴外会社から百八十万四千八百八十円の給与の支払をうけたことは当事者間に争ないので、原告が右年度に支払をうけた給与につき、法第五条の二第一項ないし法第五条第一項の適用があるかどうかにつき考えてみる。

訴外会社が法第五条の二第一項所定の法人ないし法第五条第四項第二号所定の法人かどうかはしばらくおき、法第五条の二第一項ないし法第五条第一項の適用をうけようとする者は一定の事項を記載した申告書を、給与所得の支払者を経由して毎年最初に給与所得の支払をうける月(年の中途においてあらたに給与所得を有するにいたつた者については最初に給与所得の支払をうける日)の前日までに当該支払者の所轄税務署長に提出しなければならないところ、原告が所定の申告書を提出していないことは原告の自認するところである。原告は、右申告書提出の手続は納税者に事実上不可能なことを強いるもので、違憲無効の規定であるから、右手続を履まなくても前記条項の適用をうけるべきであると主張するが、かりに原告主張の設例のような場合を考慮しても納税者に申告書提出につき不可能事を強いることになるとは考えられない(設例の場合、一月三日が一般の慣行上休日とされている関係上、申告書の提出期限はその翌日まで延びるものと考えられるし、施行規則第六条第二項によれば、期限遵守の関係では期限内に申告書が給与所得の支払者に提出されれば足り、必ずしも右支払者を経由して税務官署まで到達していることを要しないのであるから、これらを考えれば、申告書提出が不可能であるとは考えられない)ばかりでなく、本件においては原告は昭和二十五年十一月から日本に居所を有し、かつ昭和二十九年度分の所得に関するものであるから、申告書提出が事実上不可能とは到底いいがたい。

そうすると原告が訴外会社から支払をうけた前記給与所得については、その余の点を判断するまでもなく法第五条の二第一項ないし法第五条第一項の適用はないというべきであるから、右給与金額を所得税法第九条第五号の収入金額としてなした芝税務署長の更正処分には原告主張のような違法はなく、したがつて右処分を適法として原告の審査請求を棄却した被告の処分も違法でないというべきである。

よつて原告の本訴請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 石田哲一 裁判官 地京武人 裁判官 桜井敏雄)

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